夜中からケーキがムショーに食べたくて。
たぶん世界中で、今、いちばんケーキを食べたいのはあたしじゃねぇの?ってぐらい。
甘いケーキだけが食べたくて。
近くのスーパーまで歩いて買いに行った。
15分後、無事、任務を果たしたあたしは「甘い宝物」をもって帰り道を急ぐ。
あたしは小走り。
なぜか焦ってた。
このケーキはあたしのなのに。
誰もあたしからケーキを取り上げたりなんかしないのに。
気持ちばかり焦っても体は思ったように動いてくれない。
足がもつれる。
でも気持ちはさらに焦る。
体が、暴走する心を繋ぎとめられない。
バラバラに離れる。散り散りに。
途中、夜の闇に何度も飲み込まれそうになった。
「闇に飲まれて堕ちていくのは怖いなぁ。」
と思う自分と、
「いっそこの身体、飲まれてって堕ちるトコまで堕ちちゃえ。」
って思う無責任な自分が居て、その狭間でゆらゆら揺れてた。
真夜中の闇が紡ぎ出す空気はとても怖く、時に魅力的。
どうしてだろう。
あんなに欲しかった甘いケーキが、
あたしの手の中でどんどん色あせていった。
いらなくなった「甘いお荷物」は蟻にあげた。
さよならケーキ。
そしてあたしは夜の闇を蹴って宙にふわりと飛んだ。
左側に白い流れ星がキラキラ流れていった。
焦ってた心が静かに落ち着いた。
慎重に夜空を踏みしめて歩いた。
足は、もう、もつれたりしない。
そのうち夜風を愛でて走った。
近くで木が大きく揺れた。
草が静かに歌った。
幸せな夢だった。
「夢」のはずだった。
あたしは夜の闇の中、知らない場所にポツンとひとり立っていた。
時計を見たらケーキを買いに出てから3時間が経っていた。
お気に入りのピンクのサンダルは履いてなかった。
いつ脱いだんだろう。足の裏は真っ黒だった。
両手の甲が傷だらけで血が滲んでいた。
体も心もぜんぶが痛かった。
夜空を蹴っていたはずの足は黒い地面を蹴っていて、白く流れた星は車のライトだった。
魔法がとけた後のシンデレラってきっとこんな気持ち。
哀しかった。でも不思議と涙は出なかった。