外は雨色をしていた。
そして雨の匂いが漂っていた。
この世界があまりにつらいから。
今とは真逆の世界に行きたくて。
あたしは水たまりの中の世界に行くことにした。
むかし理科の先生に教えてもらったUFOを呼ぶ呪文を唱える。
1学期の途中で急に学校を辞めてしまった先生の顔は残念ながら憶えていない。
彼に教えてもらったUFOを呼ぶ呪文なんかで、どうなるのかは分からなかった。
けれども、心の何処かで、この「呪文」は正しいという確信があった。
雨の日に、小さな水たまりを選び、その近くに座る。
「あたし、まいにちつらいの。そっちの世界は逆でしょう?つらいことは無いでしょう?」
小さい水たまりに小さい右手をちゃぽん。と浸ける。
「あたし、こことは真逆の、そっちで生きるの。」
雨が増した。
水たまりが増した。
中指が入っていった。
薬指が入っていった。
人差し指が震えながら入っていった。
小指が何だか恥ずかしそうに沈んでいった。
その瞬間。
あたしの手は、小さな水たまりの中から同じような手で押し戻されてしまった。
「ココはあたしのせかいよ、あなたのせかいはそっちでしょう?」
小さな水たまりを覗くと、中にはあたしじゃない「あたし」がいた。
水たまりの中の「あたし」がそっと呟いた。
「ココは、あたしの、せかいよ。」
「・・でもあたし、つらいの、今のこの世界が。だからそっちに行きたいの。」
「ココはたしかに、あなたのいるところとは、まぎゃくのせかいよ。」
「・・だから、『つらい今』が変わるように、真逆のその世界で生きたいの。」
「でも、しってる?ココはこどくよ?」
「・・孤独?」
「そう、こどく。」
「あなたのまわりにいるひとたちはだれひとり、いないわ。」
どうしてと聞くあたしに「あたし」は冷静にこう言い放った。
「だから、ココは、『まぎゃく』 なの。」
「ママやパパ、ペットのレオも、やすみじかんにいっしょにトイレにいくともだちも、だれもいないわ。」
「いるのは、うえも、したも、まえも、うしろも、みぎも、ひだりも、『あたし』だけ。」
水たまりに浸かった右手が震えた。
「それでもいいなら、こうたいしましょう、あのひとたちみたいに?」
「あたし」は軽くわらってそう言った。
「あの人達?あたし意外にも水たまりの世界を求めた人がいたの?」
「ええ、そりゃ、いるわ、まいにち、まいにち、あふれてる。」
「あたし」は深く笑って言った。
あたしが陳腐な顔をしていると「あたし」が冷たい目で言った。
「このせかいのこと、しってるひと、いたじゃない。」
あたしはざんざん降りの雨に打たれながら。
それでも頭が熱くなるぐらい考えた。
「あのひとには、あのひとの「じぶん」が、みずたまりのなかにいたのよ。」
「あたしがいま、あなたにしたのとおなじように、せつめいしたのに。」
「すべてわかってて、こうかんしたひと。」
「かれは、しんだわ、みずたまりのなかで、こどくに。」
「いたじゃない、あなたに、じゅもん、おしえたひと。」
・・ちゃぽん。
そして雨の匂いが漂っていた。
この世界があまりにつらいから。
今とは真逆の世界に行きたくて。
あたしは水たまりの中の世界に行くことにした。
むかし理科の先生に教えてもらったUFOを呼ぶ呪文を唱える。
1学期の途中で急に学校を辞めてしまった先生の顔は残念ながら憶えていない。
彼に教えてもらったUFOを呼ぶ呪文なんかで、どうなるのかは分からなかった。
けれども、心の何処かで、この「呪文」は正しいという確信があった。
雨の日に、小さな水たまりを選び、その近くに座る。
「あたし、まいにちつらいの。そっちの世界は逆でしょう?つらいことは無いでしょう?」
小さい水たまりに小さい右手をちゃぽん。と浸ける。
「あたし、こことは真逆の、そっちで生きるの。」
雨が増した。
水たまりが増した。
中指が入っていった。
薬指が入っていった。
人差し指が震えながら入っていった。
小指が何だか恥ずかしそうに沈んでいった。
その瞬間。
あたしの手は、小さな水たまりの中から同じような手で押し戻されてしまった。
「ココはあたしのせかいよ、あなたのせかいはそっちでしょう?」
小さな水たまりを覗くと、中にはあたしじゃない「あたし」がいた。
水たまりの中の「あたし」がそっと呟いた。
「ココは、あたしの、せかいよ。」
「・・でもあたし、つらいの、今のこの世界が。だからそっちに行きたいの。」
「ココはたしかに、あなたのいるところとは、まぎゃくのせかいよ。」
「・・だから、『つらい今』が変わるように、真逆のその世界で生きたいの。」
「でも、しってる?ココはこどくよ?」
「・・孤独?」
「そう、こどく。」
「あなたのまわりにいるひとたちはだれひとり、いないわ。」
どうしてと聞くあたしに「あたし」は冷静にこう言い放った。
「だから、ココは、『まぎゃく』 なの。」
「ママやパパ、ペットのレオも、やすみじかんにいっしょにトイレにいくともだちも、だれもいないわ。」
「いるのは、うえも、したも、まえも、うしろも、みぎも、ひだりも、『あたし』だけ。」
水たまりに浸かった右手が震えた。
「それでもいいなら、こうたいしましょう、あのひとたちみたいに?」
「あたし」は軽くわらってそう言った。
「あの人達?あたし意外にも水たまりの世界を求めた人がいたの?」
「ええ、そりゃ、いるわ、まいにち、まいにち、あふれてる。」
「あたし」は深く笑って言った。
あたしが陳腐な顔をしていると「あたし」が冷たい目で言った。
「このせかいのこと、しってるひと、いたじゃない。」
あたしはざんざん降りの雨に打たれながら。
それでも頭が熱くなるぐらい考えた。
「あのひとには、あのひとの「じぶん」が、みずたまりのなかにいたのよ。」
「あたしがいま、あなたにしたのとおなじように、せつめいしたのに。」
「すべてわかってて、こうかんしたひと。」
「かれは、しんだわ、みずたまりのなかで、こどくに。」
「いたじゃない、あなたに、じゅもん、おしえたひと。」
・・ちゃぽん。
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